2024/10/25
投資とギャンブルは、どちらも金銭を使ってリターンを得ようとする行為です。しかし、投資をすることは社会的にも認められた行動である一方で、ギャンブルは避けるべきというイメージが根強くあります。両者の間にはいったいどんな違いがあるのでしょうか?運に任せるのがギャンブル?きちんと調べるとリターンが増えるというのが投資??
ギャンブルは「運次第」と考えられがちですが、投資とギャンブルの間で「運」の役割が本当に異なるのでしょうか。たとえば、競馬では馬の調子や騎手の技術を分析することはできますが、レース当日の天候や予期しないアクシデントなど運の要素が大きく関与するのは事実です。一方、株式投資においても市場の動向や経済状況、企業のパフォーマンスなど、予測不可能な要素が多く存在します。経済の流れを読み取ることができたとしても、予測が外れることがあるため、運の影響を完全に排除することはできません。
さらに、投資の世界には「効率的市場仮説」という理論があります。これは、すべての公開情報がすでに株価に反映されているため、一般投資家がその情報を使って市場を出し抜くことはほぼ不可能だとする考え方です。この理論によれば、どんなに優れた分析をしても、市場全体の流れを超える成果を上げることは難しく、長期的には投資の成功も運に依存する部分があるとされています。この仮説に基づけば、長期的には投資の成功もまた「運」によるものだと考えられるかもしれません。
このように、運の要素に関しては、株式投資とギャンブルの間に大きな違いはないかもしれません。
投資の世界では「分析をすればするほどリターンが得られる」という意見が広く受け入れられています。株式投資では、企業の業績や市場動向、経済指標を詳細に分析することが重要とされ、多くの専門家がその技術や意見を競っています。一方、競馬やスポーツ賭博などでも、過去のデータや統計を駆使して分析を行うことで、リターンを向上させることが可能だといいます。たとえば、競馬では馬の過去の成績や騎手の技術、レースのコンディションやオッズを分析することで、勝率を上げることができると言われています。
ただし、ここで重要なのはどちらも分析が必ずしも成功を保証しないという点です。どれだけ分析を深めたとしても、株式市場の突発的な動きや競馬でのレースの展開は予測不可能です。また、効率的市場仮説という考えでは、株式市場で他人より大きなリターンを得ることはできないといいます。そのため、投資とギャンブルのいずれにおいても、分析が重要である一方で、運の要素が常に影響を与えるという点では共通しています。
おやおや、それではギャンブルも投資も大差ないという結論でしょうか?
投資とギャンブルを区別するために、仕組みの違いを考えてみましょう。ギャンブルは基本的に「掛け金の一部を胴元(主催者)が取り、その残りを勝者に配分する」という仕組みで成り立っています。たとえば、宝くじでも、競馬や競輪でも、集まった掛け金の一部が主催者の利益となり、残りがプレイヤーに分配されます。この仕組みによって、プレイヤーが全員儲かることはなく、自分が勝つためには他人が負ける必要があるゼロサムゲームです。いや、胴元の取り分を考えると、マイナスサムゲームです。
一方投資は、企業や政府などといった投資対象に資金を提供し、投資対象の活動に応じてリターンを受け取るという仕組みです。そのリターンは誰か別の投資家の犠牲によるものではなく、基本的にはすべての投資家が同じように儲かったり、損したりするのです。つまり、投資家全員が利益を得ることも可能であるという点でギャンブルとは大きく異なります。
投資には、もう一つの重要な側面があります。それは、投資対象の成長を応援することで、その企業や政府などへの貢献ができるという点です。たとえば株式の場合、投資家が上場企業の株を買うことでその株価は上がります。株価が上がることによって経営者にとっては、資金調達が容易になること、経営の自由度が高まること、さらには従業員や社会からの評価が高まることなどを通じて、事業の拡大が進めやすくなります。そして事業が順調に拡大すればより多くの人びとが注目するため株価はさらに上昇します。投資家はその企業の発展に寄与したと同時にリターンを得るでしょう。推しのアイドルを応援するファンのように、自分が信じる企業を「推し」、その応援が大きく広がっていくことで、その成長を後押しし、自分にリターンが戻ってくる。しかもただの応援ではなく、実際に「リターン」を得られるというのがユニークな点です。
応援したくなる、すなわち成長してほしい企業を、数ある企業の中から選択すること、それ自体社会を変える一歩になります。多くの人がそのような投資をすることにより、未来の景色は変化していきます。個々の会社の強みや優れた技術を見つけ、それを応援して社会に広がっていくのを後押しすることは、株式投資の醍醐味でもあります。ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)が注目されているように、投資家が利益の追求と同時に、社会に良い影響を与えることをむしろ大きな目的とすることも増えています。より良い未来を、より大きな資金とともに迎えようというわけです。
ギャンブルでも、たとえば馬券を買って「文化としての競馬を応援する」という考えもあります。そもそも公営ギャンブルの胴元は実質的には政府や自治体なので、そのギャンブルをやればやるほど、納税(寄付)しているのと同じ効果があります。これはこれで社会貢献と言えそうです。また、特定の騎手や馬を応援することもできます。しかしそれがかりに大きなムーブメントになったとしても、リターンには全くつながらないところが大きく違います。
さらに例えば株式投資の場合、株主として投資先企業に貢献することで、投資家自身が企業の価値そのものを直接上げていくという可能性があります。投資家も経営陣も、ともに企業の価値の上昇を考えていますが、両社は少し異なる視点に立つことが多く、投資家は企業に、価値を上げるアイディアを提供することができます。このように、投資家(株主)が対話を通じて投資先企業そのものの価値を高めようとする活動は、アクティビスト活動と呼ばれています。配当を高めたり、不採算部門を閉鎖するといった、経営者によっては痛みにも感じたりする行動を決断したり、報酬を企業収益に連動させるような、仕組みとして収益を高めやすくなるように変革を進めることなどは、多くの場合企業価値の向上に直結します。たとえば東京証券取引所も、このような変化をもたらすような株主との対話を、積極的に進めるように求めています。このように、リターンをそのものを上げるための活動ができるというのは投資の一つの本質です。外国為替投資でも、目に見えるほどの効果があるかはともかく投資先国に貢献することで国力を高めさせることができます。このように、投資は自分のリターンそのものを高めるための行動がとれるということが、ギャンブルとは本質的に違います。
ギャンブルと投資とのもう一つの大きな違いは、投資はリスクを管理することができる点です。
リスク管理の方法は数多くありますが、ざっくりいうとその考え方は①そもそもリスクのある資産を減らしていく、か、②運や分析には限界があるので資産を分散させることで統計学的にリスクを小さくしていくこと、のいずれかに落ち着きます。ここで先ほどの仕組みの違いに由来するのですが、ギャンブルの場合、資産を分散させることで統計学的にリスクを小さくしたとき、結局胴元に取られる分だけ負けてしまう、しかもギャンブルを一回やるたびごとに胴元に繰り返し取られていくという問題があります。そこで、②の手段が使えないのです。
一方、株式投資や債券投資では、ポートフォリオを組み合わせることで、リスクを分散させ、全体的なリスクを減らすことが可能です。たとえば、異なる業種や国の株式を保有することで、一部の企業や市場が不調であっても、他の資産がそれを補完して、リスクを軽減できるのです。最初に資産を分散したときに手数料が発生したとしても、保有し続けることで繰り返し発生するということは基本的にはないので、②の手段を現実に使うことができます。
このリスク管理ができるという点は極めて重要です。投資の本質は、絶対的なリターンを追及することでもありますが、既にある財産をインフレリスクや地政学的リスクその他の避けられないリスクから守ることでもあります。そのために適切な分散投資を行うことができるというのは、忘れてはならない視点です。もちろん、この分散によるリスク管理機能を活かすためには、一つ一つの財産をばらばらに管理するのではなく、資産全体に目配りして全体としてのリスクを管理するという視点が必要なことは言うまでもありません。
投資とギャンブルは表面的には似ているようにも見えますが、その根本的な仕組みや目的には大きな違いがあることがわかります。最初に考えられがちな、運か分析かという要素では、むしろ両者には共通する面もあります。
投資には、投資対象をサポートする要素や社会的貢献の要素が含まれ、さらにそれが効果を発揮するとともにリターンが増えるというところがギャンブルとは根本的に違います。なかでも株式投資はアクティビスト活動を通じて、企業価値そのものを高める手助けができる点で、単なる金銭的リターンの追求を超えた可能性を持っていることがわかります。さらに、リスクを分散投資によって管理できるというところが本質的に異なります。
結局のところ投資は、財産を増やしたり守ったりするだけでなく、ちょっとした「世直し」に参加する気分も味わえて長期的に社会に役立つ行動でもあります。一方、ギャンブルはやはり単なる趣味として、せいぜい余裕資金で楽しむのがベストかもしれませんね。